鱗燦堂のブログ | 谷重岳路の本(電子書籍等)の販売PRを行う鱗燦堂です

鱗燦堂
ブログ
2018年08月24日 [鱗燦堂]

有島武郎『生まれ出づる悩み』の企画展をみて

 有島武郎の小説『生まれ出づる悩み』のモデルとなった北海道は岩内の画家・木田金次郎展を見に行った。中学生のときの国語の時間に、担当教師から印象深い授業を受けた記憶が新鮮な気持ちで蘇った。『日々のパンの獲得と芸術の追求の相克に悩む青年』について、教師は悪魔のような時間のおそろしさを教えた。あれから何十年が経過したろう。中学生のときの『僕』が蘇ったように、わくわくどきどきした。
 岩内山の様々な表情や、刻刻と形容を変える波数点の絵画など、会場の展示作品を順を追って、見た。
 そして、会場の一隅にわずかばかりの作品が展示されている『渡辺淳』の作品が目に留まった。企画展の主旨は、日々のパンの獲得に神経をすり減らしながらも飽くなき芸術の追求をやめない画家の作品を収集・展示するというテーマで、福井・若狭の田舎町で炭焼きや郵便配達夫をしながら絵を描き続ける『渡辺淳』の絵が展示されていたのである。
 数点とも印象に残った。その一枚。蛾が夜の野原らしいところで月の光を浴びて白い羽根を輝かせている。背景の真っ黒い闇は、若狭の海なのだろうか。手前の右のほうには灯りをともした人家が数軒ある。それとバランスするように左のほうの虚空で蛾が白い羽根を輝かせているのである。『美』よりも『醜』の印象が強い『蛾』。そうとはわかっていても、白い羽根を輝かせる『蛾』を美しいと感じさせるマジックがある。だれも観客のいない夜の空間で、それでも精いっぱい白い羽根を輝かせ、舞う『蛾』が奇妙にも美しいのか。その生命の輝きは、やけに悲しい。『生まれ出づる悩み』出版100年記念・木田金次郎展


PageTop